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誰でも輸出できるのに「できない」深いワケ|化粧品の事例
更新日:2022年9月19日
化粧品の輸出は「誰でも行える」ことになっているにも係わらず、現実的には「誰でも行えるわけではない」という実情をご存知ですか?
そもそも「貿易は自由、誰でも輸出できる」って本当なの?って思いますよね。
それは本当なのですが、「誰でもできる」はビジネスの実情や実務には即していないのです。その辺りのことを解説できればと思います。
ところで、日本国内で商品を納品するには「納入先へ荷物を発送」すれば良いのですが、貿易を始めて「国境を越える」となると事情が変わってくるというのはイメージとしてお分かりいただけるかと思います。
日本の商品は海外での需要が高く、なかでも化粧品は品質の高さ、安全性から多くの女性の支持を得やすい商品です。
商品の安全性は折り紙つきですし、自由貿易の概念と照らすと輸出ができそうな気がします。
また、関税法で化粧品が輸出禁制品になっているワケでもありませんよね。
では一体どんなハードルがあるのか、そういった点をこの記事では書いていきたいと思います。
目次

国内と外国の法令のはざま…
日本で売られている化粧品をそのまま輸出することは誰でも可能です。
では、日本で売られている化粧品をそのまま外国で販売することは可能でしょうか?
答えは、おそらくNoです。
日本の店頭を思い浮かべてほしいのですが、必ず消費者が成分や製造元等の製品情報を確認できるようになっています。
どこの国もそのような表示に係るルールを定めていますので、それに準拠していることが求められます。
そこで輸出先国のルールに基づいてラベルを用意して貼りたいと思いますが、ここで問題が生じます。
ラベル貼りなどは化粧品製造業許可を持っている業者が行えるもので、誰もが自由に気軽に行って良いことではないとされています。
これは関税法とは係りなく、化粧品製造に関する規制で医薬品医療機器等法に定められており、厚生労働省の管轄となります。
自然派は注意の輸出令
輸出令とは、外為法の輸出貿易管理令のことです。
主に安全保障に係るルールを定めていて大量破壊兵器や武器等やその製造、転用に使えるものの取引を規制していますが、他にも日本はワシントン条約で規制されている動植物の取引についても、輸出令(輸入令)で定められています。(日本はワシントン条約に批准しています)
化粧品では、特に自然派化粧品に使われる原料の成分にワシントン条約に抵触するような希少な植物が使われていないかという指摘を受ける可能性が考えられます。
基本的にそのような植物のエキスを原料メーカーが販売していることはないかと思いますが、指摘を受けた場合には、原料メーカーに資料の提出を求める必要が生じます。
しかしながら、メーカー側がこの資料を用意してくれるのかという問題や、あるいは用意するとしても相当時間を要する場合があります。
フォワーダーさん側(通関業者さん)の担当者が成分表を確認してこの点に疑問を抱いた場合、証明できなければ手続きは進みません。
なぜなら、輸出者が輸出貨物に責任を負うのは当然ですが、フォワーダーさん側も違反の可能性を察知しながら手続きを進めることはできないためです。(通関業法による)
輸出先国の法令に準拠しているか
前述のラベル表示もその1つです。リサイクルマークや、フォントサイズ等の記載要綱を満たす必要があります。
化粧品の場合は、使われている成分にも着目する必要があります。日本では使用可能な成分であっても、外国ではNGの場合もあるからです。
たとえば、日本では美白化粧品による白斑問題が起きた後、「肌の状態を確認しながら使ってください」といった主旨の文言を必ず表示するようになりました。
そういった表示に係る輸出先国の決まりは事前に調べておく必要があります。
輸送について
化粧品というジャンルは、化学品に分類されるため成分表はもちろん、SDS(MSDS)というデータシートの提出を求められる可能性が高いです。
データシートは製品の流通過程で業者同士で取り扱うものでメーカーが発行しています。取り扱い方、万が一中身が漏れた場合にどう対処するかなどを明記している書類です。
これらの書類をもと航空会社や船会社が搭載可能なことを確認します。
化粧品といっても幅が広いので、飛行機に搭載できない場合は船の輸送になります。
化粧水、乳液等の基礎化粧品に関しては多くの場合航空機に搭載できると思うので、その方が良いのではと個人的には思います。
(海上輸送中のコンテナ内は非常に高温多湿になってしまいますので、品質への影響がないことを確認した方が良いように思います。)
輸出して終わりではない
何らかの問題が生じて返品となる事態が100%起きないと言えるでしょうか?
もしも返品を受け付けて商品を戻す場合、輸入の手続きを行う必要が出てきますよね。
最初に書いた「日本国内の法令」の項目になるのですが、化粧品の輸入は化粧品製造業許可を持っていなければできません。
さて、ビジネスとして不良品の返品を受け付けないという商売が成り立つでしょうか?
あるいは、不良品と報告されてた実物を確認せずに返金対応することは現実的でしょうか?
こうして輸出した化粧品を再度輸入する際には「化粧品製造許可を有している」という条件が整っている必要があります。
基本的に返品を受ける場合は、他の外国貨物と同じように通常通り輸入するものと考えておかれた方が良いです。
と言いますのも、関税法上で返品のための再輸入と認められることは非常にハードルが高く、恐らく不可能に近いため、通常の輸入となると思っておかれた方が良いように思います。
一方で、薬機法においては返品のための輸入として手続きを進める方が自然ですから、厚生局でその点を認められてから税関の手続きに進むことにになるかと思います。
尚、過去にこのような流れで対応したことがありますが、現在の状況やあるいは担当者によって対応が異なる可能性がありますので、あらかじめ確認の上、指示に従う必要があります。この点はご留意ください。
リスクへの対策
商品が原因で重大なトラブルが生じた場合に備えて、ふつう製造業者はPL保険に入ります。
PL保険とは生産物賠償責任保険と言われるもので、輸出者においては輸出者自身が輸出PL保険に加入することが求められるようです。
基本的に、取引においてはPL保険に入っていることが求められることが一般的なようですので、ここをカバーしおかなければそもそも取引になりません。
「誰でもできる」とはいえ、こういったリスクへの知識と対策を講じることなく商売を始めることは難しいでしょう。
まとめ
この事例では化粧品を例にポイントを確認しました。
誰でも自由に輸出できる、それが基本ですが、扱う品物の関係法令や輸出先国の法令に準拠することを考えると実際にはハードルがあることは把握しておかれる必要があるかと思います。
近年は個人で輸出入を行う方が増えましたが、準備や知識不足により実態としては法令に違反しているケースは多いと聞いたことがあります。
化粧品に関して言えば、輸出入の代行を行っている会社さんがありますので、そういったエキスパートの力を借りるという手段もあるのではないか思います。
お読みいただきありがとうございました。
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※本記事は旧ブログaoko's blogから移転し適宜修正したものです。